フォーチュン
「頭を上げよと言ったはずだが」
「も、申し訳ございませんっ」とアナスタシアは謝罪すると、ユーリスに言われたとおり、すぐに頭を上げてユーリスを見た。

眉間にしわを寄せたまま、射抜くようにアナスタシアを見据えるユーリスの青灰色の瞳と、怯えた形相を隠しきれないアナスタシアのすみれ色の瞳の視線が絡み合う。
ヴィヴィアーヌは、「あの、ユーリス王子」とつぶやきながら、思わず手を伸ばしたが、それより早くユーリスは一歩、また一歩、アナスタシアのほうへと近づいた。

ヴィヴィアーヌが伸ばした右手は、何も掴むことはなく空を切って元に戻る。

・・・すみれ色の瞳。
金色がかった茶色の少し波打った髪は、アンと同じ、肩まで届く長さ。
背丈もフレデリックが言っていたそれと符合するし、アンと同じ程だと俺も分かる。

近づいてくるユーリスに、後ずさることをしなかったのは、恐怖で身が竦み、動けなかったからだ。
だからか、ユーリスに両腕を軽く掴まれたアナスタシアは、「ひっ」と怯えた声を出してしまった。
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