フォーチュン
ビシュー国は小麦の名産地だとアンジェリークが知っているのは、ビシューがバルドーの隣国に位置しているからという理由だけではない。
嫌いだった勉強の中で、唯一世界地理だけが好きだったからだ。

「そうですか。あの、つかぬことをお尋ねしますが」
「なあに?」

見かけ、アンジェリークの姉たちよりも、もう少し年上と思われる露店のおねえさんは、優しい微笑を浮かべながら、気さくな口調で言った。

「身分証を持たずに国外へ出る、一番安全な方法をご存知ありませんか」

ズバリ、ストレートなアンジェリークの質問に、おねえさんは「おや」といった顔で、改めてアンジェリークを見た。
そして周囲にいた客数人も、その質問が聞こえたのか、アンジェリークをチラッと見る。

「そうだねぇ、やっぱり荷馬車に身を潜めるって方法が一番安全だよね?あんた」と、思案顔でおねえさんは言うと、隣にいた夫と思われる男にふった。
「あぁそうだな」とのんびりした口調で夫が答えたのを皮切りに、周囲の客たちがあれこれと意見を出し始めた。

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