フォーチュン
おねえさんの提案は、アンジェリークにとって、とてもありがたいものだった。
しかしそれは、おねえさん夫婦に、身分証無しで出国をする手助けをしてもらうことを意味する。
もし出入国の門でアンジェリークが見つかれば、おねえさん夫婦にも処罰が下されることは間違いない。
罰金だけでは済まずに、バルドーへの出入り禁止を言い渡されたら、ここで商売をしている夫婦にとっては、これからの生活にも関わってくる。

アンジェリークが抱く不安を察したのか、おねえさんは「大丈夫」と朗らかな口調で言いながら、アンジェリークの肩をポンと優しく叩いた。

「大きい声じゃ言えないけど、うちらは何度かしたことあるから。お嬢ちゃんには少し窮屈な思いをさせちゃうけど。どっちにしても、荷馬車の荷物の中に隠れてなきゃダメ。徒歩じゃあ出入国の門を突破することは無理だよ。ね?あんた」
「ああ。ただ、俺たちもそれなりのリスクを伴う分の金はもらうが」
「当然です・・・で、おいくらでしょうか」
「1000ルキア」

バルドーとビシュー間の正当な出入国料は片道500ルキアだと、アンジェリークも知っている。
その倍の価格を高いと思うか、その程度で出国できると思うのか。

アンジェリークは後者の考え方だった。
 
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