フォーチュン
おねえさんの夫は何度もうなずきながら、安堵の表情を浮かべている。
そしておねえさんはただ一言、「よかった」と、だけ言ったが、その声も口調も、明らかに安堵していた。
二人とも、アンジェリークのことが心底気がかりだったのだ。

おねえさんは、ほぅと安堵の息をつくと、「私はハンナって言うの。そしてこっちが私の夫のヤン」と名乗った。
ヤンは手綱を持って前を見たまま、うなずいた。

「お嬢ちゃんの名前は?」
「あ・・・私はアン、です」

もうバルドー国に、「アンジェリーク皇女」はいない。
これから私は、ただの「アン」として生きていく。
コンラッドとともに。

ハンナはさして疑いもせず、「そう。よろしくね、アン」と、これまでどおりの気さくな口調で言った。

「はい。よろしくお願いします」

このときのアンジェリークは、新たな人生の旅立ちに喜びを感じ、心からの微笑みをハンナに向けていた。
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