フォーチュン
「じゃあ、アンジェリーク皇女はグリアにいらっしゃるのか」
「いえ。宝石を持ち込んだ男を見つけ出した大使からの情報によりますと、どうやらそやつらは、ひと月ほど前に、アンジェリーク様をグリアからレアルタへお連れした模様でございます」
「アンジェリークの宝石を“料金”にしてな」

・・・それだけじゃない。
恐らく賊どもは、アンの金も盗んでいるはずだ。

両手をこぶしに握り、ブルブルと震わせているユーリスの全身から怒りがみなぎっているのが、その場にいる全員に痛いほど伝わってくる。
官吏二人は冷や汗をかきながら、無意識にユーリスから後ずさった。

護衛長のコンラッドは、ユーリスの周囲を素早く確認した。
何も物がないことに、ひとまず安堵する。
でなければ、ユーリスの八つ当たりによって壊されてしまうからだ。

他の護衛の者たちは、テーブルに広げている地図をユーリスが力任せに破らないよう、密かに隅を押さえたり、それとなく自らの身で匿っていた。
彼らの行動は全て無意識に出たものだが、長年護衛をしていると、ユーリスの性格はおのずと分かるというものだ。
< 217 / 318 >

この作品をシェア

pagetop