フォーチュン
ユーリスが執務室で一刻も早くアンジェリークを見つけ出すと決意を新たにしたその頃。
アンジェリークは、イーディスの伯母が経営する「宿」で、仕事をしていた。

朝５時に起きて、濡れた雑巾で廊下を拭く。
そして宿の住人皆の食事を作り、外玄関を掃く。

「落ち葉がまだ残ってるよ！それにここにごみがあるじゃないか！お客さんの靴を汚す気かい！」
「す、すみません」
「まったく。要領悪い上にのろまだなんて、言い訳にもなりゃしないよ。サッサとここの掃除済ませて、２号室の掃除もしておきな」
「はい」
「はい、じゃない！かしこまりました、マダム・ルッソ、だろ？」

カミナリが落ちるように、マダム・ルッソの叱責声がアンジェリークに飛ぶ。
そのたびにアンジェリークは身をすくませながら、マダム・ルッソに謝るのだった。

「・・かしこまりました、マダム・ルッソ」

うつむいて、手に持っている箒を命綱のようにギュッと握りしめてそうつぶやいたアンジェリークに、マダム・ルッソはフンと鼻で笑った。

「昼ごはんの準備もあるんだよ。こんなところで時間潰してないで、サッサと済ませな」
「かしこまりました、マダム・ルッソ」とアンジェリークがまたつぶやいたとき、マダム・ルッソはすでに背を向けて歩いていた。
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