フォーチュン
最初にここへ来た日、イーディスさんとマダム・ルッソはとても優しかった。
私に晩ごはんをごちそうしてくれて、空いてる部屋があるから、そこを使っても構わないと言ってくれた。
なんて親切な人たちなんだろうと感激し、そのような人たちに巡り会ったことに感謝した。

『じゃあね、アン』

翌朝、そう言ってイーディスさんが宿を出た後、マダム・ルッソから次々と「仕事」を言い渡された。

『私は十分な金を持ってないあんたを、タダで泊めてあげてんだよ』

掃除や料理、窓拭きといった仕事は、プリウスでもしていたことだし、そこでの仕事はとても楽しかった。
楽しいことをして、お金をもらえて。
何より、コンラッドのところへ近づいているという実感があった。
それが生きる励みになっていた。

その日の午後、マダム・ルッソから客室の掃除を言い渡されて、初めてそこへ行ったとき、ここがただの宿ではないことに、私はやっと気がついた。

ここは娼館だった。
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