フォーチュン
「コンラッド」
「はっ」
「警察へ伝令を送れ」
「かしこまりました」とコンラッドが答えたのと同時に、アンジェリークのバッグを持ったロキが戻ってきた。

「身分証は入っているな?」
「ぬかりなく」
「よし。ここはローデワイクとオブライアンに任せる。コンラッドとロキは、俺たちとともに先に王宮へ戻るぞ」
「はっ」

私の隣から聞こえるこの声は、夏至祭のあのときと同じなのに、命を下すことに慣れている口調は、上に立つ者としての威厳が備わっている。
あぁ、やはりこの御方は、ドラーク王国のユーリス王子なんだわ。

アンジェリークは、自分を抱きしめるように、思わず両腕を交差させた。
その両手に握りしめたのは、ユーリスから「着ろ」と命じられ、手渡された、彼の正装上着というのも、皮肉なものだ。

そのときユーリスは、アンジェリークの右手をつかむように強引につなぐと、「行くぞ」とつぶやき、スタスタ歩き出した。

「えっ、ああの、ちょ・・・!」

急に手をつかまれたアンジェリークは、一瞬前につんのめったが、すぐ体勢を立て直すと、ユーリスの速い歩調についていくため、小走り状態でついていった。
< 260 / 318 >

この作品をシェア

pagetop