フォーチュン
「王子」
「なんだ、コンラッド」
「もう少し歩調を緩められてもよろしいんじゃないかと。そのー・・・ルーシー様もお疲れのようですし」

早足で歩いていたユーリスが、急に立ち止まった。
そして、手をつないでいるアンジェリークをじっと見る。

その美麗な顔には表情がない。
しかし、ユーリスの青灰色の瞳に射抜かれるように見られている気がしたアンジェリークは、少し腰が引けた。

「ルーシー、か。おまえには不似合いな名だ」

ユーリスの口調と声音には、どことなく面白がっている響きがあったが、それ以上に侮蔑が込められているように、アンジェリークは思えた。

「行くぞ。今は一秒たりとも無駄にはしたくない」

そう言ってユーリスはまた、スタスタ歩き出した。
しかしユーリスは、コンラッドの言う通り、少し歩調を緩めたものの、うつむいていたアンジェリークは、ユーリスに手を引っ張られる形に踏み出し、またしても前につんのめってしまった。
< 261 / 318 >

この作品をシェア

pagetop