フォーチュン
昨夜の出来事は・・・夢ではなかった。
私は・・・私は、ユーリス様と・・・。

『慣れろ』

昨夜ユーリスに言われた言葉が、不意に耳元に蘇ったアンジェリークは、頬をポッと赤らめた。
アンジェリークの戸惑いと恥ずかしさが分かる、といった感じでマチルダはうなずくと、「ユーリス王子は、ただいま執務中でございます」と言って、アンジェリークに微笑みかけた。

「あ・・・そうですか」
「王子がお戻りになるまで、貴女様にはこちらでお待ちいただくように、とのことでございます」
「は、い。分かりました。あの、このお部屋は・・」
「ユーリス王子の私室でございます」
「まあ!」

世界で一番繁栄している大国の王子の私室は、娼館の一室より、もちろん広くて豪華だが、そこまで広すぎず、華美すぎてもいない。
というのも、ユーリスは普段、この私室を入浴したり眠るためだけに使っているようなものなので、過度な広さや過多な調度品は必要ないと思っているのだ。
それゆえアンジェリークは最初、この部屋は、王宮内にたくさんあると思われる、客室のひとつだと思った。
しかし、それにしては、毎日使われているような、なじみ感や温もりを感じていたため、マチルダにユーリスの私室と答えられて驚きの声を上げつつ、納得もしていた。
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