フォーチュン
上着代わりと称してアンの背後からピッタリとくっついたこと、あのとき何度もキスをしたことを思い出したユーリスは、思わず唾をゴクンと飲み込んだ。

今思い出してどうする!
と、ユーリスは心の中で己を叱責し、欲望を2秒でどうにか締め出した。

アンのふるまいから、品の良さを一度ならず何度も感じた。
時折育ちの良さを思わせる言葉遣いもしていた。
だからアンは高貴なレディではないか、と思ったのは、俺の願望かもしれない。
しかし、見た目だけで何事も判断してはいけないと生命の木に「言われた」ことを考えれば、アンが正真正銘のレディである可能性もある、ということではないか?

アンが宿泊をしていたホテルは、宴に招待された、遠方から来た他国のレディたちも利用していたと聞く。
確かに、あのホテルは格式高く、王家に関わる賓客御用達だ。
そして抜群に記憶力の良いフレデリックの言葉を聞いて、あのレディが「An(アン)」と名乗ったのは、「Anastathya(アナスタシア)」から取ったものだと俺は確信した。

つまり、アンは、アナスタシア皇女だ。
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