フォーチュン
普段から自分の感情は決して見せない占術師・愚者が、珍しくクスクスと笑った。
その声はとても軽やかで、マクシミリアン国王は、なぜか安堵した。
が、「しかし」と愚者が続けると、国王の眉間にしわが寄った。

「物事は常に揺らぎやすく、移ろいやすい。絶対と言っていたことが絶対ではなくなることもございます。思考も然り。前進しすぎて暴走なさなぬよう、たまには周囲を御覧になることをお忘れなく。自分の思いが全てではございませぬ。その固いご意志が過ぎることが仇となりませぬよう・・・」

そう愚者は言うと、また1枚引いた。
そのカード「6・恋人(ザ・ラバーズ)」は、愚者から見て逆位置になっている。

「6は7から1つ引いた状態。何事も見た目で判断し、早々に結論付けることは、控えたほうがよろしいでしょう。独り先走る状態は、お互いの誤解を招くことにもなりかねませぬ」
「・・・ドラークの未来は明るいのか」
「この出会いが、ドラーク王国にとってチャンスとなるのか、それとも誤算となるのか・・・」

そう愚者が言いながら引いたカード「10・運命の輪(ウィールオブフォーチュン)」は、逆位置になっていた。
それを見たマクシミリアンが、ハッと息を呑む声音が、僅かに周囲に響いた。

「運命の輪は、すでに廻り始めました。定められた運命に逆らうことは、誰もできませぬ」
「愚者・・・」
「ですが国王様、変えることはできます。全てはユーリス様とユーリス様の想い人次第でございます」

愚者の尤もな言葉に、国王は何も言葉が返せなかった。
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