フォーチュン
「ありがとう、アン。そしてご苦労様でした」
「う・・・そんな。本当はそんなに滞在していないと言ったでしょう?」
「それでも自分じゃないフリをすることがどんなに神経をすり減らすことなのか。心中察するわ。アンは本当によくやってくれたわ」

アナは私がアナになりすまして宴に出たから、このような・・・腑抜け状態になってしまったと思っている。
常に相手を思いやり、優しく接することを忘れないアナらしい気遣いと推測だ。
魂を抜き取られた、か。
確かに・・・そうかも。

私はコンラッドに心を奪われた。

「それで、ユーリス王子のお姿を見たの?」
「あー、ええ。遠目だったから、これくらい小さかったけど」とアンジェリークは言うと、左手の親指と人差し指の間を2ミリほど開けた。

「まあ!そんなに小さいお方なの?ユーリス様は」とアナスタシアは言いながら、クスクスと笑っている。

同姓の目から見ても、アナは愛らしく美人だと思う。
そしてこういう上品な笑みを浮かべているアナを、実際ユーリス様がご覧になったら、それこそ一瞬で心と魂を奪われていたと思う。
その点は本当に残念だし、全然役に立てなかったことは許してほしい。

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