フォーチュン
すぐ近くに自分の想い人がいると思うと、気が急いてしまい、つい歩調が速めになるのを抑えることに、ユーリスは集中していた。
そうでもしなければ、ヴィヴィアーヌとアントーノフからアナスタシアがいる部屋の場所を聞き次第、彼らをその場に置いて、突っ走っているところだ。

盲目的に誰かを愛した事などない俺にとっては、このざまが非常に滑稽に思えてならない。
しかし形(なり)振り構っていられない。
アンを待たせた分、俺も待った。
返事の文(ふみ)を見た限り、アンも俺に恋焦がれていると分かる。
というより、夏至祭のとき、すでにお互い恋に落ちていたのだ。
今更誰にも止められはしない。
これが俺の、いや、俺とアンの運命なのだから。

「こちらですわ」というヴィヴィアーヌの声で、ユーリスはハッと我に返り、今この時に思いを集中させる。
続いてヴィヴィアーヌはドアを軽くトントンとノックをすると、「アナスタシア?ドラーク王国のユーリス王子をお連れしました。入りますよ」と威厳のある声で言い渡した。

ドアの向こうから「はいっ」と慌てた声が聞こえてきた。
それはほんの一瞬のことだった。
ユーリスは何か・・・引っかかりを感じた、ような気がした、と思えるほどの。

ユーリスがそう思った間に、ドアは開けられた。
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