アイ・ラブ・ユーの先で


「ほら、食え」


ずい、と。プッチンするので日本一有名なプリンが、なぜかいきなり目の前に差しだされていた。


「え……もしかして、わざわざ買ってきてくれたんですか?」

「明らかに泣いてんのに手ぶらで来るのもアレだろ。しかもあんな露骨にプリン好きアピールされといて」


アレとか、ドレとか、そういうことを気にしたりするタイプの人だなんて思わなかった。


どうして先輩がいつもこんなに親切にしてくれるのかまったくわからなくて、普段の数億倍は自己嫌悪にまみれたいま、これを素直に受けとるなんてことできない。

ふるふる、かぶりを振って遠慮する。


先輩はそれ以上押しつけてきたりせず、素直に手を引っこめた。

それを瞳だけで追いかけながら、なんとなく、また、泣きたくなった。


「なんで、いきなり、電話くれたんですか。なんで、泣いてるかも、なんて……思ったんですか」


このまま黙っていたらよくないと思い、かわりに率直な疑問をぶつけた。


「きょう学校でちらっと見かけたんだよ。そんとき、なんか、そういう感じの顔してたからな」

「ふうん……。先輩、きょうは、ちゃんと登校してたんですね、えらいです」

「エライってなんだよ。俺の話はしてねえんだよ」


でも、いまはあまり、わたしの話もしたくないから。


「というか、見かけたなら声かけてくれてもよかったのに」


おもいきりすねたい気持ちでそう言ったら、先輩は少し笑ったあとで、静かに目を伏せた。

こういう横顔を見るのははじめてで、なんだか目が離せなくなってしまった。

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