アイ・ラブ・ユーの先で
「1年のやつ、しかも女子が俺と知り合いだと思われて、いいことのほうが少ないだろうからな」
その言葉に、横顔に、はっとする。
こんな校内の端っこに生息している1年女子ですら知っている噂を、その本人が耳にしていないわけがないはずなんだ。
「先輩、もしかして、ほんとに……」
「“本当”だったら、おまえ、どうすんの?」
こっちをむき、にやりと笑った顔を見て、なぜか逆に確信を持ててしまうのが不思議だった。
先輩は絶対に噂に聞いているような“やばい”人なんかじゃない。
「べつに、どうもしません。わたしはわたしの見たものを信じるタチなので」
そうきっぱり伝えると、先輩はおかしそうにくくっと喉を鳴らして笑った。
「さすが、見る目あるよ、おまえ」
「そうですか? それはとーっても光栄です」
「だからさ、もう、ぴーぴー泣いてばっかいんなよ」
言いながらこっちに伸びてきた、大きな手。
まだそこに収まっていたプリンが頬にぴとりと当てられたら、とても、とても冷たくて、あんまり冷たすぎて、再び涙腺がバカになってしまう。
「……ほんとに、いつもはぜんぜん、泣かないんですからね。先輩がちょうどよく鉢合わせすぎてるだけで」
頬に涙を落とし、鼻をすすり、しゃくりあげ、やがて嗚咽をかみ殺しはじめる。
そういうわたしを、先輩はまた、みすぼらしいとか思っているだろうか。
泣き終わったらまた、からかわれたり、おちょくられたり、するだろうか。
それでも、なにも言ってこない、その場しのぎの安っぽい言葉を投げかけたりしない先輩の隣は、本当に、信じられないほど、心地いいのだ。