アイ・ラブ・ユーの先で
分厚い雲に隠されたむこうで、それでも太陽の光をもらいながら、月は懸命に地球を照らそうとしてくれている。
数十センチ隣にあるブランコから、触れてもいないのに、なぜか体温を感じた。
「……お兄ちゃん、が、います」
自分のことを話すのは昔から本当に苦手なんだ。
いつも、妹の小鳥のようなかわいいおしゃべりと、兄の聡明でおもしろい話を、わたしはその真ん中に挟まれて聞いてばかりだったから。
だから、こんなふうに、へたくそでも、いびつでも、こらえきれないで言葉がひとつずつ漏れ出してくるというのは、はじめての経験だった。
「妹も、います。わたしなんかとぜんぜん違う、ふたりとも、すごく、すごく、よくできた人間で。お兄ちゃんはかっこよくて、妹はほんとにかわいくて」
ぽつ、と頭頂部に冷たいものを感じた。
「わたしだけが……失敗作で」
雨が、降ってきていた。
「いらなかったと思う。お兄ちゃんと、妹だけで、うちは足りてたと思う。だって、わたしだけ、ずっと……みじめで、ずっと、ずっと、自分の存在がすごく、恥ずかしくて。家族みんなに、申し訳なくて」
いま頬を濡らしているのが涙なのか、雨なのか、わからないまま、止まらないくちびるを延々と動かしつづけた。
いましゃべることをやめたら、とたんに我に返って、その瞬間に死んでしまう気がした。
「はやく、消えてしまいたい。わたしが生まれてきたこと、なかったことになればいいのにって、たまに、本当に強烈に、そう思います」