アイ・ラブ・ユーの先で


上のほうから手を差し伸べられているんじゃない。

だからといって下にいるわけでもない。


先輩はわたしの隣にいた。

ずぶ濡れになりながら、ずぶ濡れのわたしを抱えて、沈みも、浮きもしないで、ただ漠然と、堂々と、ずうずうしく、呼吸をくり返していた。



見た目よりずっと分厚い胸に頬をぜんぶあずける。

うるさい雨音を掃うように鼓膜まで届いてくる心音は、わたしのそれよりも少しだけ緩やかなスピードで、なぜか安心した。


「……先輩、わたし、こんなこと言ってね、本当はお兄ちゃんのことも、妹のことも、すごく、大好きなんですよ」


そう、もちろん、お父さんとお母さんのことだって。



「そんなことは全部、言われなくてもとっくに知ってんだよ」



先輩はひとりごとのように、けれどわたしの耳に確実に落としこむように、とても静かに言った。

それは、単なる同調でなく、本当にそのことを知っているみたいな言い方だった。



ゆったりと目を閉じる。


先輩は、どこか、なつかしい香りがする。


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