アイ・ラブ・ユーの先で
腫れぼったい目から惰性のような涙を落とし続けながら、すんすんと鼻をすすっていた途中、ふいに小さなくしゃみが生まれたところでやっと我に返った。
勢いでいっしょに飛び出しかけた鼻水を、意地でも垂らしてしまうものかとおもいきり吸いこむ。
同時にとても近い場所で、わたしじゃない誰かが小さく笑った。
そう、とても近い――腹筋の細かな震えさえも伝わってくるくらいのところで。
「あ……」
いったいどれくらいのあいだ、こうしてくれていたのだろう。
水崎先輩は、降りしきる雨にも、情けない涙にも、濡れてしまうことをいとわないで、泣きつづけるわたしの頭をずっと支えてくれていたみたいだった。
ほかの場所は凍えそうなほど冷えきっているというのに、くっついているところだけが妙にじっとりと生ぬるい。
そっと体を離し、先輩を見上げる。まだ濡れている視界のなかでたしかに目が合う。
傷み知らずのきれいな黒い髪からひっきりなしにしずくがしたたっている。本当にひどい雨だ。
「本当にひでえ顔だな」
ためらいもせず、大きな手のひらでわたしの顔を包みこみながら、先輩はからかうように笑った。ついでに優しい力で両頬を引き伸ばされる。
「……そっちこそ」
「俺は“水もしたたるナントカ”ってやつだろうが」
そういうことを自分で言ってしまえるとは、けっこう、なかなかの人だな。
けれど、たしかに否定できないほど先輩は水もしたたるホニャララという感じで、いざそのことに気がついてしまったら突然恥ずかしくてたまらなくなった。