アイ・ラブ・ユーの先で
「あ……すみません、なんか、みっともないとこ見せて……」
あわてて距離を取り、誤魔化すために無意味にポニーテールをさわる。
その手を、なぜか再びがしりと掴まれた。
「とりあえず、雨やどり」
無理やり立ち上がらせられたら、そのまま屋根つきの休憩所のようなスペースまで連れていかれた。おそらくここは子どもを遊ばせている保護者たちが使う場所だろう。
濡れ続けていた体に水分が落ちてこなくなったとたん、急速に冷えこんでいくのがわかった。6月といえども雨の夜は寒い。
自分の二の腕を抱え、さすっていると、いきなりバサッとなにかを頭の上からかぶせられたのだった。
「羽織っとけ」
前開きの、薄手のシャツ。なんだかとってもクシャクシャだ。
ずぶ濡れの人から受け取ったとは思えないほど、ほとんど濡れていないそれは、両手で抱えるとほんのり温かかった。
「なんですか……これ、いま、どこから出てきたんですか」
「単車乗るとき素肌晒しとくと怖いんだよ」
事故時のリスクのことを言われているのだと理解する。
たしかに、車と違ってバイクは生身のまま乗るので、一度のアクシデントがライダーにとっては洒落にならない大惨事になってしまうのかもしれない。
だけど、あまりそういうことは考えなさそうな、豪快で無鉄砲な人かと思っていたので、そんなせりふを言われるのはけっこう意外だった。
「そんなことはどうでもいいから、羽織っとけ」
「え……でも、先輩も寒いんじゃ」
「べつにどうってことねえよ、これくらいは」
吐き捨てるように突っぱねながら、右手で濡れた髪をかき上げる。
無意識のうちにしたであろう、その動作はなんだかとても年上の男性という感じがして、こんなときなのにどぎまぎしてしまう。