アイ・ラブ・ユーの先で
「そんなにめかしこんで、どうしたんだよ」
シフト表によると、先輩はきょうは19時までガソリンスタンドで働いているはずで。
その退勤を職場近くで待つつもりで、地図アプリを頼りに仕事場へむかっている途中、見覚えのある黒のバイクが隣につけてきたので、本当に驚いた。
「あれ? 先輩、きょうは7時までのはずじゃ」
ノロノロ走行していた車体が完全に停車する。つられてわたしも脚の動きを止めた。
「そうだけど、なんでおまえがそれを知ってんの」
「あ、仁香さんが、シフト表……」
「ああ。もらったのか」
先輩は、プライバシーを勝手に受けとったわたしのことも、勝手に受け渡した仁香さんのことも責めたりせず、ただ納得したようにうなずいただけだった。
「暇そうだったし早めに上がってきた。誰かが帰り道もわからず途方に暮れてんじゃねえのかと思って」
「……べつに、先に帰る気マンマンでしたけどね」
ふん、と鼻を鳴らして笑う。
直後にハイハイと数回うなずいた横顔は、すでにもう何枚も上手な感じがして、これまでに女っ気がなかったなんて絶対に嘘だ、と思った。
「だって、ていうか、きのうの夜からずっと放置しっぱなしにしてきたのは、先輩のほうじゃないですか」
「なに? そんなに俺と一緒に寝たかったんなら、はじめからそう言えよ」
「なん……! よ、よくもそんなことを……!!」
「悪かったな。女どうしだし、俺より仁香のほうがいろいろスムーズだろうと思ってな」
なぜか、そこで、当たり前みたいにヘルメットを渡された。
「んじゃ、これから、埋め合わせ」