アイ・ラブ・ユーの先で
本当に強引な人だと、接するたびに感じる。
いつも自分のペースでどんどん物事を進めていく。
だけどいま、後部座席に跨って、背中に身をあずけて、お腹に腕をまわしたのは、ぜんぶわたしの自発的な意思だったことだけは、嘘をつかないでおこうと思う。
「きのうはちゃんと寝れたのか」
夜にまるごと抱かれるようなドライブの途中、先輩はたまに、うしろの存在をいきなり思い出したかのように、話しかけてくるのだった。
わたしが眠りこけてしまって、バイクから転げ落ちていないか、確認しているのかもしれない。
「はい……なんだかんだで、とっても」
「それならよかった」
「先輩は眠れましたか?」
「は? なんの心配だよ」
けらけら笑う軽快な音といっしょに、手のひらでさわっている腹筋の動きを感じる。
「俺は自分ちなんだからガーガー寝れるに決まってんだろうが」
先輩が、嘘をつくのが上手なのか。
それともわたしのほうが、見抜く力がなさすぎるのか。
これまでにもらった何気ない一言のなかにも、ひょっとしたら、こんなふうに小さなペテンがいくつも隠されていたのかな。
「……先輩」
突然、たまらない気持ちになる。
広い背中に顔を埋めて、懇願するように、祈りをぶつけるように、呼んだ。
――水崎昂弥先輩。