アイ・ラブ・ユーの先で
土曜の夜、食卓を囲んでいたところにタイミング悪く帰宅してしまったわたしのことを、家族の誰も責めたりしないかわりに、その全員が腫物のように扱った。
そうしたい、というか、そうせざるをえない気持ちはわかる。
言いたいだけ言って、突然飛び出したかと思ったら、いきなり『帰らない』のメッセージだもんね。
わたしだって自分にものすごく戸惑ったし、いろいろとわけがわからなくて泣きずっぱりだった。
だから、わかる。
ちゃんと、わかっている。
それなのに、誰に対してもうまくゴメンナサイを言えなかったのは、どうしてだろう。
「佳月、ちょっといい?」
家族の誰ともあまり言葉を交わさないまま、眠ってしまおうとしていた直前、部屋にやって来たのはお母さんだった。
憔悴した感じの顔を見て多少は胸が痛んだけれど、やっぱりなにを言えばいいのかわからない。
お母さんは、なにを言いに来たのだろう?
「きのう、びっくりしちゃった」
一言めは、気を遣っているように見えて、なにか探るような言葉だった。
「まさか佳月があんなことするなんて……あんなこと、言うなんて」
いったいなにを口走っていたのか、あのときは頭がかなり沸騰していたせいで、実のところあまりよく覚えていない。
あいまいにうなずくと、お母さんは困ったように首をひねった。
「志月のこと、ショックだったのはよくわかるよ。お母さんも、それにお父さんも、葛藤があった。いまも完全になくなったわけじゃない」
なんだろう。
どこかで、なにかのピントが、小さくぼけていく。
顔を上げていられず、ベッドに座ったままうつむいたわたしの隣に、お母さんは寄り添うように腰かけた。