アイ・ラブ・ユーの先で


「なにしてんの、おまえ」

「……なに、って、先輩の、ほうこそ」

「澄己から連絡あったんだよ。突然おまえが人ごみのなかを走り始めたって。意味不明だろうが」


佐久間澄己先輩、あのやろうめ。
その説明では圧倒的に情報量が少なすぎるし、わたしがただのアタマオカシイやつみたいじゃないか。

でも、まあ、これから花火がはじまるというのに、浴衣姿のまま反対方向へ全力疾走していたわたしは、限りなくそれに近いかもしれない。


「だって、いま、バイト……してるんじゃ」

「そんなのはおまえが気にすることじゃない」


先輩がバイクから降りてくる。

そして、もうずいぶん遠くにある花火大会の人ごみに視線をむけ、まぶしそうに目を細めた。


「澄己が女に逃げられたのなんてはじめてなんじゃねーの」


よくやった、と。
先輩は褒めてくれているのか、呆れかえっているのか、よくわからない調子で小さく笑った。


「で、きょうは? また遅刻? それとも家族と喧嘩でもしたのかよ? もし澄己のせいなら――」

「――先輩のせいです」


ああ、単に“センパイ”だけじゃ、どの先輩のことなのかわからないね。


「ていうか、意味不明はこっちです。なんなんですか。なんで、いつも、いざというときに駆けつけてくれるんですか。ほんとに……ほんとに、むかつきます。腹が立ちます。頭にきてます。先輩、わたしは、」

「むかついてんなら、帰るよ」


先輩は、きっともう、わかっている。

ぜんぶ察している。
気づいている。


わかって、察して、気づいて、それで――静かに、たしかに、わたしのことを拒絶しているのだ。

こんなのって、ちょっと、あんまりだ。

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