アイ・ラブ・ユーの先で
「俺は、好きでもない女をケツに乗せたり、プリン食わせたり、自分から電話かけたり、家に泊めたり、しないんだよ」
悩んで、迷って。さんざんそうしたあとで、やっと絞りだしたような言い方だった。
遠くで花火が上がっている。連続で、何度も。
クライマックスが近いのかもしれない、と、ふやけきった脳ミソの端っこでぼんやり思う。
「佳月」
昼間の太陽に焼かれてまだ熱いアスファルトに座りこんだまま、先輩はわたしの耳元でもういちど名前を呼んだ。
「頼むから……もう、二度と泣かないでくれ」
せっかくきれいに着付けてもらった浴衣がかなり乱れてしまっている。
メイクも、ヘアも、もはや見るにたえないような仕上がりになっていることだろう。
だけどいまはもう、そんなことになんかかまっていられない。
わたしは先輩にしがみついたまま、うわごとのように支離滅裂なことをしゃべりながら、最後の一滴が落ちきるまで涙を流しつづけた。
「先輩……好きです。どこにも行ってほしくないです」
ふいに、ぴったりくっついていた体が離れた。
そっと指先をつかまれる。
やわらかな黒髪に隠された額がゆっくり降りてきて、答えをくれるみたいに、わたしのそれと、こつん、とぶつかった。
いつのまにか花火もすべて打ちあがり、白い煙だけが残った、どこかさみしい夜空の下。
先輩は、約束のかわりのように、いま持っているありったけをくれるように、とても切なげに、わたしの頭をかき抱いた。