アイ・ラブ・ユーの先で
前学期のテストのみの日程だったらしいお兄ちゃんと、侑月のことがあったからか定時で上がってきたというお父さん、早々に家族がそろったので、すこし早めに夕食をとることにした。
侑月はいまだに起きてきていない。
トイレなんかにさえ、一度も降りてきていない気がする。
ちょっと様子見にいってくるよ、と自発的に申し出たわたしに、家族のうち誰も異論を唱えなかった。
3つならんだまったく同じ形のドアのうち、いちばん左を慎重に遠慮しながら叩く。
だけど、どれだけ待ってみても返事はなく。
勝手に開けるのははばかれたけど、それより心配の気持ちのほうが勝り、静かに、ゆっくり、ドアノブを室内へ押しこんでみる。
部屋のいちばん奥に位置するベッドの上に、妹は横たわっていた。
すう、すう、一定のリズムを保ちつづける寝息が、かすかに大気を揺らしている。
それを聞いて、ほんの少しだけほっとしてしまう。
寝る体勢をしっかり整えてから目を閉じたのでなく、たぶん、シーツの上で力尽きてしまったのだろう。そういう体勢だ。
ふかふかの枕に頬をあずけ、うつ伏せのまま寝息を立てる侑月は、おとぎ話に出てくるプリンセスに匹敵しそうなほど愛くるしい姿をしていた。
ああ、涙の痕を残しているね。
どれだけ泣いていたんだろう。
泣き疲れて、眠ってしまったのかな。
どうして、泣いているんだろう。
侑月の身に、いったいなにが起こっているというの。