アイ・ラブ・ユーの先で
人懐こい薄茶色の瞳が大きく揺れて、ぼろり、ぼろりと、大粒の涙をいくつも流した。
「お姉ちゃんが、侑月のこといちばん嫌いなの、知ってるもん」
小さな絶叫とともにピンクのクッションが顔面に飛んでくる。
ざらついたレースの素材が頬をかすめて、なんだか異様に痛かった。
「なんで……そんな、こと、言うの」
「だって、侑月にまねっこ、されるの嫌だって、言ったのはお姉ちゃんじゃん」
――ああ、どうして。
中身はわたしからのお下がりも多い、ヘアアクセを収納しているボックス。
それを、侑月は手を伸ばして引っつかむと、おもいきり棚からひきずり落としたのだった。
クマや、ウサギ、花に、水玉、リボン。
侑月のお気に入りたち、かつてわたしのお気に入りだったものたちが、バラバラと音を立てて床に散らばっていく。
「わかるんだもん、ぜんぶ、そんなの……っ!」
ベッドの上のぬいぐるみを、ひとつ残らずわたしにむかってすべて放ると、侑月はその場にうずくまり、大声を上げて泣いた。
その騒ぎは下の階まで伝わったらしく、姉妹の到着をリビングで待っていた家族3人が、そろって末っ子の部屋にやって来たのだった。
だけど、うまく状況を説明できない。
ふり返ることさえできない。
いま、自分がうまく呼吸をできているのか、わからない。
憐れなぬいぐるみの山に埋もれ、ただ茫然と立ち尽くしているわたしの肩を、お母さんが叩いた。
たいした衝撃でもないのに、このまま粉々に砕け散るかも、なんてばかなことを思う。
「ちょっと……佳月、どうしたの。いったいなにがあったの?」
ああ、この際もう、粉々に砕け散ってしまえたらいいのに。