アイ・ラブ・ユーの先で
「わたしになんか微塵も期待してなかったじゃん。甘やかして、かわいがってもくれなかったじゃん。お父さんも、お母さんも、ずっとお兄ちゃんと侑月ばっかりだったじゃん。なのに、なんで、わたしだけがいつまでも“手のかからない、いい子”でいつづけなくちゃいけないの? 教えてよっ」
おもいきりファスナーを閉めた。
勢いだけで詰めこんで、なにを入れたのか自分でもよくわかっていないから、足りないもの、不要なもの、きっと多くあるだろう。
「もう、ずっと前から……うちは、佳月だけ、いらないでしょ?」
学校に持っていっているリュックからティラノサウルスとクチビルを外し、ボルドーのボストンバッグに付け替えた。
「志月と、侑月だけで、じゅうぶんでしょ?」
お母さんが泣き崩れた。
なんでそっちが泣くんだよ、泣きたいのはこっちだよ、と。沸騰するほど熱いのに、氷点下まで冷えきった頭が文句を垂れている。
「……しばらく、帰らないから」
それは、数日間だけかもしれないし、一生かもしれない。
だって、うちの家族は4人だったら、もっとうまくいくかもしれない。
なにかゴチャゴチャ怒鳴っているお父さんや、お兄ちゃんをふり切って、太陽の沈みきった世界へ飛び出した。
いますぐに、顔を見たい、会いたい人がいる。
絶望的なまでに不幸な気分だというのに、そんなふうに思える存在がいるのは、とても、恵まれていることなのだろう。