アイ・ラブ・ユーの先で
「おまえはなにをしてるんだよ」
よく聞き慣れた声が降ってくると同時に、目の前に濁った黄色の液体を差しだされていた。
「あ……」
「ガキはおとなしくリンゴジュースでも飲んでろ」
そんなこと言って、そっちだって、未成年のくせに。
まだ心がトゲトゲしていて悪態をつきたくなったけど、バーテン姿の先輩はどこからどう見ても成人男性だったので、やめておいた。
白いシャツも、青みがかったサロンも、よく似合う。
前髪を上げているところもはじめて見た。
むしろ、なんだか、普段は高校生をしているということのほうが、いまは嘘のように思えてきてしまう。
「……ごめんなさい、急に」
「親戚のガキってことになってるから、それだけ合わせてろ」
右側の椅子に腰かけた先輩が、誰にも聞こえないように耳打ちした。
たしかに、どう足掻いても女子高生のわたしを直属の後輩だとは紹介できないだろうし、ましてや恋人だとは口が裂けても言えないだろうから、素直にうなずいておく。
「で、それ全部、おまえの荷物?」
床に置いていたボストンバッグを顎でさされる。
いきなり本題に入られて、言葉に詰まりかけたけど、違うと嘘をつく理由はなにも思い浮かばなかった。
「……家出、してきました」
「なに? しかもその量、ひと晩って感じでもなさそうだな」
「長期です。……なんならもう、一生帰らなくていいです」
フンと鼻で笑った横顔が、リンゴジュースのグラスを奪っていく。
嚥下するたびに上下に動く喉仏を盗み見て、ふてくされた気持ちでくちびるを突きだした。
「本気ですもん」
「あ、そう」
ぜんぜんまじめに取りあってくれない。
当たり前だ。わたしが逆の立場でも、間違いなく同じ反応をしていただろう。