アイ・ラブ・ユーの先で


また、あのあたたかくてやさしい、水崎家に連れ帰ってくれるかと思っていた。

だけど冷静に考えれば、終わりを決めていない家出をしてきた高校生を受け入れるなんて、ふつうの家庭ではありえないことで。


一生、家出をする。

それがどういうことなのか、わたしは本当の意味で理解しないまま、飛び出してきてしまったのかもしれない。


自分がいまなにをしているのか自覚したら、急に恥ずかしくてたまらなくなった。

勢いだけで大荷物を抱えて、突然やって来て、家出してきました、なんて。
そんなことを言われても困るだけだ。

どんなに大人びて見えても、ふたつ年上だとしても、先輩だって、まだわたしと同じ高校生なのだ。


「バイト終わるまで、ここでリンゴジュースでも飲みながら待ってろ」


それでも、どこまでも、うんざりしないでいてくれる。
こんなバカにもとことんつきあってくれる。

思えば、あの雨の夜だってそうだった。

先輩は、面倒くさがらないで、泣きじゃくるわたしの頭を支えて、ずっと隣にいてくれた。


わたしはあのとき、先輩を好きになったのかな。

そうじゃない、なんだかしっくりこない気がするのは、なぜだろう。


カウンターのむこうへ行ってしまった背の高い影を目で追いながら、ひとつひとつの瞬間を思い返しては、甘いりんご味といっしょに体内へ溶かしていく。


水崎昂弥という男に恋をしはじめたのは、かなり最近の出来事だったようにも思うし、もっと、もっと、うんと昔のことのような――


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