アイ・ラブ・ユーの先で



働いているあいだ、どんなにお客さんにすすめられても、先輩はお酒を一滴も飲まなかった。

マスターと呼ばれていた人が「こいつは飲まないですよ」と言っていたから、きっと普段からそのスタンスなのだろう。


それでもきっちりクローズまで働き、時刻は深夜2時。

いくらアルコールを摂取しないとしても、未成年がこの時間まで働くというのは、どう考えても違法なのでは。


「半分寝た顔してんな」


お酒や煙草といった大人のにおいにまみれた店内から、いつのまにか、無味無臭の夜道に放りだされている。

あまりの眠気に朦朧としているところ、ぶに、と頬をつねられた。
痛いより、眠たいのほうが、それでも断然強い。


「佳月ちゃんだっけ。ごめんね、早めに上がってもらおうと思ったんだけど、なかなか忙しくて」

「あ、いえ……」

「ちゃんと昂弥に連れて帰ってもらうんだよ。じゃ、お疲れさま。気をつけてね」


マスターさんと別れるなり、店の裏側に停めてあった黒い相棒のもとへ、先輩はわたしを連れていった。

なるほど運転するから飲酒はしないのか。と、納得できたような、やっぱりできないようなことを、頭の片隅で思う。


「あの……さっきの言葉ですけど」

「さっきの?」

「ふたりで暮らす、って」

「ああ、本当にロクなところじゃないから覚悟しとけよ」


ぽこんとヘルメットを手渡された。

それを手のひらのなかで飼い慣らしながら、このまま黙って頭にかぶってもいいものか、一瞬だけ考えてしまった。

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