アイ・ラブ・ユーの先で


「……ほんとに、ふたり、で?」

「おまえが怖気づいてもう帰るって言うんなら、家まで送ってやるけど」


俺はどっちでもいいよ、と言われているみたいで、悔しくなる。

突然おかしなわがままを言って困らせていること、申し訳ないとも思うし、なんの保証もない、途方もない家出に怖気づいているのはかなり図星で、情けない心には簡単に迷いが生じてしまった。


「どうする?」


だけど、ひとりずつ家族の顔を思い浮かべてみたら、やっぱりどうにもダメだった。

お父さん。お母さん。お兄ちゃん。侑月。

誰ひとりとして憎いわけじゃないんだ。


――ただ、こんな気持ちを抱えたまま、いま、帰るなんてできない。



先輩はなにも言わず、わたしの手から重たい球体を取り上げると、いつもみたくそれを頭にかぶせてくれた。

この大きな車体に跨るのにももうずいぶん慣れてきたような気がする。


先輩はわたしを家まで送るのではなく、無計画なガキくさい家出につきあってくれるだろうと、言葉はないのになんとなく確信できるのが不思議だった。


深い時間をとうに迎えている街。

不健全な時間帯に吸いこむ酸素は、信じられないほどそっけない味なのに、おかしなほど気さくな温度をしている。

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