アイ・ラブ・ユーの先で
数十分のドライブを経て、先輩がバイクを停めたのは、見たこともないような、なんというか、不穏な感じの雰囲気を纏った場所だった。
こういうところを、裏路地、というのだろうか。
そこかしこに下品な落書きが施されていて、乱立する建造物はこの時間に関係なく、まるで機能していないようにも見える。
「――恭平。悪いな、こんな時間に」
静寂のなか、いきなり先輩が声を出したので驚いた。
わたしたち以外には誰もいないと思っていたけど、暗闇へ目を凝らすと、ひとりの男の子がこちらへやって来るところだった。
名前を親しげに呼んだということは、先輩の知り合いかな。
「お疲れさまです」
駆け寄ってくるなり、先輩よりもひとまわりほど小さな体が軽い会釈をする。
やんちゃな印象の目を、闇夜に光らせながら先輩を見上げた彼は、どこか子犬のような雰囲気をしている。
愛情に包まれながら飼われているようなそれじゃない。
どちらかというと、捨て犬のような感じに近い。
それにはこの見るからに治安の悪そうな背景も、かなり大きく作用しているのかもしれないけど。
「おまえさ、こんな時間に当たり前のように連絡つくのは有難いけど、高校ちゃんと行ってんの? サボんなよ」
学校をサボることに関しては、先輩は人のこと言えないと思う。
とは言わないで、おとなしく黙っておく。
「行ってます。あしたから夏休みス」
ふてくされたように答えたふたつの目が、そのままこっちに向いてきて、ばっちり視線が合った。
しまった。いま、わたし、かなりじろじろ見てしまっていたかも。