アイ・ラブ・ユーの先で
「……銀河」
「えっ?」
「銀河恭平。そっちは?」
隣で先輩がくつくつと笑っている。
どこからどう見ても善良そうでない、むしろ不良という感じの男の子に話しかけられて怯えてしまっているのを、たぶん、見破られている。
「え、あ……えと、阿部佳月、です」
悔しいのでしっかりと自己紹介をした。
それなのに彼は、ウンともスンとも言わないで、とてもつまらなさそうに、ふいっとわたしから視線を逸らしたのだった。
なんて愛想のないやつ。
ボコられそうでコワイから文句は言えないけど。
「おまえら、同い年だから。ガキどうし仲良くな」
まるで他人事みたいに、おかしそうにしゃべった先輩が、捨て犬の彼からチャリチャリ音の鳴る金属を自然に受けとった。
大きな手のなかに収まったシルバーは、正真正銘の鍵だ。
もしや、これが、“ふたりで暮らす”ための?
「じゃ、おれはもう退散するんで」
「ああ、おやすみ、悪かったな」
ペコリと頭を下げ、吸いこまれるように闇のなかへ消えていったうしろ姿を見送る。
とても華奢な体。ちゃんと食べているのかと、なぜかおかしな心配をしてしまった。
「じゃ、行くか」
「行く、って」
「念押ししとくと、たぶんおまえがこれまで寝てきたどんな場所より、最低に劣悪なところだからな」
それは、なんとなく、街の雰囲気を見たらわかることだ。