アイ・ラブ・ユーの先で


「昂弥先輩が……荒れてたっていう理由を、銀河くんは知ってる?」


こっちはなかなかヘビーな気持ちで訊ねたけれど、相手が何気ない質問として受け取ってくれたのは、いくらかの救いだった。


「まあ、ざっくりとなら。おれも詳しいことはわかんねえけど。おれがあの人に出会ったときはもう、かなり改心して真人間になりつつあったし」

「あ、そうなんだ……」

「引き取ってもらった家? 親戚かなんか? が、すげえいいところなんだってな。だから恩返ししないといけないって、中学卒業するくらいのころよく言ってた」


それは水崎家のことで間違いないだろう。

天下一品のプリンを作るお父さんと、和製フランス人形のような美しい母娘。

あのあたたかい家族に、わたしも、もういちど会いたいと思っている。


「荒れ散らかしたのは、まあふつうに、実の父親がクソだったからじゃねえの? 前の苗字は思い出したくもないってマジで嫌そうにしてたし」

「前の、苗字……」

「あー、なんだっけ? チラッと聞いたことあるんだけど」


遠い記憶を引っかきまわしているような表情が、さんざんそうしたあとで、ふと、探しものを見つけた感じの色に変わった。



「――あ、そうだ、“里浦”」



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