アイ・ラブ・ユーの先で


先輩が、本当に、さとくんだったとして。


もしそうなら、あのときわたしと同じ病棟に入院していたはずのお母さんは、いまどうしているのだろう。

あれから、病気は、どうなったのだろう。


そういえば、お父さんの話って、一度も聞いたことがなかったかもしれない。

前の苗字を思い出したくもなくなるほどって、いったいどんな人だったのだろう。



わからない、ぜんぜん、こんなに毎日いっしょにいるのに。

先輩が本当にさとくんなのかどうかすら、実のところ、わからない。
確信なんてものはない。


さとくんの名前は絶対に“さとうら・こうや”で、
先輩の昔の名前も、銀河くんの言ったことが事実なら、“里浦昂弥”だけど。


それでも、先輩は、青いティラノサウルスのことをまったく知らなそうだった。

さとくん、という響きを聞いても、いつも他人事みたいな態度をとっていた。


だから、わからない。


ついさっきまでのわたしと同じで、単に忘れているだけかもしれないけど。

でも、ここまでの情報がそろっていて、ひとつも思い出さないということが、本当にありえるのかな?

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