アイ・ラブ・ユーの先で
うまく呂律がまわらなくて、呼吸を整えるのといっしょに生唾が喉を下りていく感覚が、吐きそうなほど気持ち悪かった。
「お母さんが……倒れて、救急車で運ばれた、って」
スマホを持ち上げようとするけど、どうにも手が震えて、何度も落としてしまう。
見かねた先輩が拾いあげ、わたしの手のひらの上に持たせると、そのまま外側からしっかりと包みこむように握ってくれた。
そのぬくもりを感じているうち、気が動転しているのが少しだけ引いていく。
大きな手のひらに支えられながら、どくどく、嫌な感じに暴れつづける心臓の音を抑えこみ、やっとの思いで画面をタップした。
「――もしもし」
こちらが投げかけた電波は思いのほかあっさり繋がった。
お兄ちゃんの声。相変わらず落ち着きはらっているのに、どこか以前とは違っている気がして、なんだか怯んでしまいそうになる。
「お兄ちゃんっ、お母さん……ほんとう?」
「なんでこんな嘘つかなきゃならないんだよ。いま、父さんと一緒に病院にいる」
「ねえ、お母さん、大丈夫なの? なにか重大な病気なの? とにかく、いま、どういう状況……」
「それを佳月に教える義理はない」
明確な拒絶の言葉だった。
出来の悪い上の妹にも分け隔てなく優しくしてくれたあのお兄ちゃんに、もう二度と会えないのかもしれないと思うと、身勝手にさみしくて、苦しくて、たまらなくなった。
「気になるんだったら、帰ってきたらいいだろ。あれから母さん、ろくに食べられも、眠れもしないで、どんどん弱っていったよ。侑月も部屋から一歩も出てこなくなって……」
――佳月の、せいで。