アイ・ラブ・ユーの先で
いつのまにか電波が途絶えていた。
重力に負けた腕がずるりと垂れ下がったはずみで、スマホが床に落ちた鈍い音を聞いて、やっと我に返る。
「……せん、ぱい」
なんだか、呼吸が苦しい。
うまく吸えないし、吐くこともできない。
肺に溜まっていく二酸化炭素に、ゆるやかに首を絞められているようで、恐ろしくてたまらなくなる。
このまま、死ぬの?
息が吸えなくて。吐けなくて。
そうして、窒息して、わたしは死ぬの?
苦しい。
怖い。
わたしが侑月の心を壊してしまった。
わたしがお母さんの体を壊してしまった。
わたしが、仲の良かった家族を、めちゃくちゃにしてしまった。
それならもういっそ、このまま、死んだほうがいいのかな?
「佳月」
気づけば、大きな体に抱き寄せられ、ゆっくりと上下に背中をさすってもらっていた。
少しずつ酸素が戻ってくる。
胸に頬をあずけ、目を閉じると、両目から涙がひと粒ずつ流れ落ちた。
「……どうしよう、先輩、わたしのせいで」
たしかに、あの家にいて、納得できないこと、飲みこめないこと、たくさんあった。
そのたびに頭のなかで文句を垂れたりもした。
名前をつけられない涙を、ひとりでひっそり流したことだって、数えきれないくらいあった。
でも、――それでも、
わたしは家族が憎かったわけじゃない。