アイ・ラブ・ユーの先で
お父さんのことも。お母さんのことも。お兄ちゃんのことも。侑月のことも。
憎かったわけじゃない。
消えてほしいと思ったことなんて、一度もない。
「ほんとは、みんなのこと、ほんとは、ほんとは……、大好きなのに」
どうしていつも上手にできないの。
ただ、わかってほしかっただけなのに、伝えたかっただけなのに、認めてほしくて、愛してほしくて、みんなをとても好きだから、さみしくてしょうがなかっただけなのに、どうしていつも、わたしは。
「わかってるよ」
先輩は、なにか根拠があるみたいに、きっぱりと言いきった。
「好きだから涙が出るし、諦めきれないから悲しくなるんだよ。だから、いまこうやって泣けてるおまえは、まだまだ、ぜんぜん、大丈夫だ」
強く、優しい腕に抱かれながら、横顔をそっと見上げる。
涙でにじみきった世界のなかで、月の生みだす白い輝きを頬に受けながら、“彼”は当時とまったく同じ顔で笑んでいた。
「全部わかってる。俺は知ってる。おまえが、誰よりも家族を好きで、大事に思ってること」
嘘じゃなく、先輩はきっと、本当にぜんぶ知っているのだと思った。
わたしのこと、
わたしのこの、涙の理由を。
水崎昂弥は、里浦昂弥だから。
里浦昂弥は、さとくんだから。
はっきり思い出せる。
もう、確信している。
ずっとどこかなつかしく感じていたこの香りに、わたしは昔、たしかに出会ったことがあった。