アイ・ラブ・ユーの先で


お父さんのことも。お母さんのことも。お兄ちゃんのことも。侑月のことも。

憎かったわけじゃない。

消えてほしいと思ったことなんて、一度もない。


「ほんとは、みんなのこと、ほんとは、ほんとは……、大好きなのに」


どうしていつも上手にできないの。

ただ、わかってほしかっただけなのに、伝えたかっただけなのに、認めてほしくて、愛してほしくて、みんなをとても好きだから、さみしくてしょうがなかっただけなのに、どうしていつも、わたしは。


「わかってるよ」


先輩は、なにか根拠があるみたいに、きっぱりと言いきった。


「好きだから涙が出るし、諦めきれないから悲しくなるんだよ。だから、いまこうやって泣けてるおまえは、まだまだ、ぜんぜん、大丈夫だ」


強く、優しい腕に抱かれながら、横顔をそっと見上げる。

涙でにじみきった世界のなかで、月の生みだす白い輝きを頬に受けながら、“彼”は当時とまったく同じ顔で笑んでいた。


「全部わかってる。俺は知ってる。おまえが、誰よりも家族を好きで、大事に思ってること」


嘘じゃなく、先輩はきっと、本当にぜんぶ知っているのだと思った。

わたしのこと、
わたしのこの、涙の理由を。


水崎昂弥は、里浦昂弥だから。
里浦昂弥は、さとくんだから。


はっきり思い出せる。

もう、確信している。


ずっとどこかなつかしく感じていたこの香りに、わたしは昔、たしかに出会ったことがあった。


< 246 / 325 >

この作品をシェア

pagetop