アイ・ラブ・ユーの先で
ただのコンビニだ。めずらしいものなんてひとつもない。
けれど、退屈な病室でひとりでずっと寝ていることを思えば、その場所はこの世の楽園のようにも感じた。
いろいろ物色しているうちに、冷蔵庫のスイーツコーナーで見つけてしまった、大好物のプリン。
お金を持っていないから買えないことは子どもながらにわかっていたけど、好きなので、ついつい触りたくなってしまう。
だけど、いざそうしようと指先を伸ばした瞬間、プリンはあっさり別の手に横取りされてしまったのだった。
「……かづきの、プディン」
事故のようなものとはいえ、話しかけたのは、たしかにわたしが最初だったかもしれない。
「え?」
ななめ上にある顔が、小さな声に反応して、驚いたようにこちらを見下ろした。
奥二重の目、いまよりもう少しだけくりくりしていて、どちらかといえばかわいい感じの印象だった気がする。
「言っとくけどこれ、プディンじゃなくて、プリンな」
年上の男の子だ、お兄ちゃんと同じくらいかな、
なんてのんきな考えをめぐらせていたところに、ピシャリとそう言い放たれたので本当に面食らった。
あまりにも上から目線に、はっきり言われたんで、けっこう傷ついたし、しっかり怖かった。
「ちがうもん」
「なにが?」
「しってるもん、かづき、じょうずに言えないだけだもん」
そう、当時ちょっとだけ、“ら行”と“や行”が苦手で。
舌ったらずなしゃべり方に察するところがあったのか、彼は目を細めて笑むと、わたしのほうにラベルを見せるようにプリンを差しだしたのだった。