アイ・ラブ・ユーの先で


「おまえも“プディン”、食いたいの?」

「……ウン、でもおかね、ないから」

「買ってやろうか?」

「えっ、いいの?」

「でも、俺の金じゃないから、誰にも内緒な」


たぶん間違いなく、それが彼からの、はじめての餌付け。


売店の目の前にあるベンチにならんで座り、なんの変哲もないプリンを、まるでご馳走のように頬張った。

インフルエンザから回復したあとに食べるそれは、比喩でなく、本当にそうだった。


プリンを買ってくれた彼は、“さとうら・こうや”と名乗った。


「さとう、りゃ、こ……うゃ」

「は? なに? へたくそすぎだろ」

「う……」

「おまえ、サトの部分しかマトモに言えないのかよ」


彼がケタケタと笑い転げる。


「いいよ、じゃあ、その部分だけで」

「ん……、さとくんってよんで、いい?」

「うん、それでいい」


さとくんは、あのころから、笑うと目尻に小さな皺の刻まれる男の子だった。

< 250 / 325 >

この作品をシェア

pagetop