アイ・ラブ・ユーの先で
「佳月、家族は?」
「お父さんは、おしごとだし、お母さんは、妹のおせわがあるの。妹ね、まだ、ようちえんだから」
「ああ、そういうことか……」
そりゃあ寂しいな、
と寄り添うみたいに言ってくれた彼は、きっとあのころから、見て見ぬふりを上手にできない人だったのだろう。
きっと、わたしがいまにもあふれ出しそうな涙をいっぱいいっぱいにこらえていたことを、さとくんは気づいていた。
「でもね、おしごとがんばってるお父さんも、おうちのことしてくれるお母さんも、なんでもできるお兄ちゃんも、かわいい妹も、かづき、だいすきなんだー」
幼いわたしがなにより大切に抱えていた、一点の曇りもない気持ち。
少しだけ照れくさい気持ちで口にしたのを、さとくんは、とても丁寧に受けとってくれた。
「うん」
ななめ上の顔が小さくうなずく。
そして、彼は口角をキュッと上げながら、首をかしげてわたしの顔を覗きこんだ。
「じゃあ、退院するまで、俺が佳月のお見舞いしてやる」
「えっ?」
「毎日ヒマだろ? 俺も、ヒマだからさ」
じわじわ、ぐわぐわ、心が喜びで押し上げられていくのがわかって、そうしたらじっとしていられなくて、たまらず足をバタつかせる。
「さとくんっ、あしたも、ここに来る?」
「なに、ここがいいの?」
「うん、ここがいい!」
「もうプリンは買ってやらないよ」
「……それでも、いいもん」
本当はちょっとばかし残念に思ったこと、顔にはシッカリ出てしまっていたかもしれない。
さとくんがおかしそうに笑っていたから、きっとそう。
それでも、はじめての指きりげんまんを、わたしたちは出会った最初の日に、たしかに交わしたのだった。