アイ・ラブ・ユーの先で
さとくんは昼間はふつうに小学校に通っているというので、彼がわたしの“お見舞い”をしてくれるのは、決まって夕方以降の時間帯だった。
真冬の日照時間は驚くほど短い。
病室の窓から見えていた鮮やかな青が東のほうへ吸いこまれて、どんどん黒に侵食されていく様が、ひとりぼっちのわたしはいつも、なんとなくとても恐ろしかった。
うちで家族といっしょに過ごしているときは、こんなふうに感じたことなんか一度もなかったはずなのに。
みんな、いまごろ、なにをしているかな。
おうちのきょうの夜ごはんは、なんだろうな。
佳月のこと、忘れてしまっていないかな。
ぐじゅ、と鼻が詰まりはじめる。
あわててベッドから飛び起き、白い病室を抜け出した。
お父さんやお母さんと楽しそうに過ごしている同年代の子たちがたくさんいる、ナースステーションの隣のカフェスペースを通過する瞬間が、いつも少しだけ苦しかった。
大人たちにつづいてエレベーターに乗るのも、ずいぶんお手のものになってきたと思う。
つんと刺すように痛い鼻も、なにかつかえているみたいな喉も、2階に到着するころにはぜんぶ解消して、わたしは一目散にあのベンチを目指すのだった。
「さとくんっ」
名前を呼ぶと、なんだかもったいぶりながら、ゆっくりふり返ってくれる。
そうして、病院のなか走んなよ、と苦笑されるのがお決まりだった。