アイ・ラブ・ユーの先で
「佳月さ、昔、昂弥にウサギのぬいぐるみと、折り紙で作ったハートあげなかった?」
「……ハイ、あげたと思います」
「それね、昂弥、いまでも大事に持ってるから」
そんなことを、先輩のいないところで、わたしにバラしてしまってもいいのか。
これは知らないふりをしていないと、わたしも共犯としてシメあげられるのではないか。
想像しただけで身震いするほど恐ろしい。
でも、わたしだって青いティラノサウルスを大事に持っていたわけで、それを先輩はちゃっかり知っているわけで、これでやっとおあいこになったような気がするのも本当だ。
「ずーっと気がかりだったんだよ、昂弥は、病院で会った阿部佳月チャンのことが。だからね、もう、どうにかなってよかったーって本当に思ってるわけ。これは100パーセント昂弥側に寄った発言ね」
仁香さんにとって先輩は初恋の人だったはずなのに、心からそんなふうに言ってもらえるのは、きっとすごくかけがえのないことだと思う。
これもぜんぶ、昂弥先輩がずっと仁香さんに対して誠実でありつづけた結果なのだろう。
「昂弥のこと、よろしくね」
「う……よろしくできますかね、わたしに」
「でたー! 佳月の無駄・無主張!」
そんな、まるで名物みたいに、さらりと人の悪口を言わないでほしい。
みっともなくストローを噛んでしまわないよう意識しながら、黙ってレモンスカッシュを吸いこんだ。
「バカだねえ。佳月はもう、何者でもない女の子じゃないでしょ?」