アイ・ラブ・ユーの先で


からん、と。
丸い氷どうしが、淡い黄色のスパークリングのなかで、小さく、涼しげに、ぶつかりあった。


「阿部佳月はずっと前から、水崎昂弥にとって、世界でいちばん特別で、大切な女の子なんだよ」


なんだか体じゅうがかゆい。
じっと座っていられないほどムズムズする。

どんな表情を顔にひっつけておけばいいのか、ぜんぜんわからない。


いままで、わたしにはなにもないと思っていた。

出来のいい兄と、甘え上手な妹に、お母さんのお腹のなかでぜんぶ吸いとられて、わたしだけなにも持たないまま生まれてきたんだって、そう悲観していた。


でも、そうじゃなかったのかもしれない。

こんなにもものすごい奇跡、心から大切だと思える誰かにめぐり会って、愛情の気持ちを抱いたら、同じ想いを返してもらえたこと。

これ以外にもうなにもいらないと感じられるほどの大きな幸福を、わたしはぎゅっとこの両手に抱きしめて、この世界に生まれてきたのかもしれない。


いまは、そんな陳腐なことさえ思ってしまう。



「そういうわけで、今夜はこのままうちに泊まりに来ない?」


口に運びかけていたプリンのかけらを食べそこねてしまった。


「……えっ?」

「見たくない? 昂弥の部屋」

「ええっ」

「佳月にもらったウサギのぬぐるみと、折り紙のハート、ウッカリ目撃したくない?」


あまりにも突拍子もない提案に答えあぐねていたら、突然のお泊まりは許されない厳しい家庭なのかと問われたので、咄嗟に、バカ正直に否定してしまう。


「じゃあ、決まりだね。おうちに連絡しなよ。お泊まりグッズは前みたいに、あたしのやついろいろ使えばいいからさ」


なんと強引で、無遠慮で、傲慢な。


「あ、でもきょう佳月が寝るのは、モチロン昂弥の部屋だからね」


この感じ、ちょっと冗談抜きで、本当に身に覚えがありすぎるのだ。


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