アイ・ラブ・ユーの先で
なんだかんだで押し切られ、水崎家で夕食をごちそうになり、ソファでココアまでいただいているとき、ガソリンスタンドでのアルバイトを終えた昂弥先輩がやっと帰宅してきた。
「なんでおまえが当たり前のようにいるんだよ」
その感想は絶対に間違いじゃない。
なぜなら、このリビングのなかで、誰よりいちばんわたし自身がそう感じているわけで。
「……おじゃましてます」
「おじゃましてもらってまーす」
仁香さんがわたしの声にかぶせるように、3トーンくらい高らかに言った。
先輩はなにか察したのか、黙ったまま苦笑を浮かべると、ラップのかかったアスパラベーコンを電子レンジに突っこんだのだった。
「ねえ昂弥ー、佳月さ、きょううちに泊まってもらうんだけど、寝る場所って昂弥の部屋でいいよね?」
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、かなりの勢いで飲んでいる大きな背中に、仁香さんが問いかける。
直後、がふ、とものすごい音がした。
「……仁香が泊まるように言ったんじゃないのかよ」
「そうだよ?」
「じゃ、誘ったやつの部屋でいいだろうが」
「ええ? ちょっと、18にもなってそんな中学生みたいなこと言わないでよ、恥ずかしいな」
仕事を終えたらしいレンジが遠慮がちにピーと鳴く。
先輩は小さく息を吐き、仁香さんをはじめとする家族を居心地悪そうに見渡したあとで、最後にわたしのほうへ視線をむけたのだった。