アイ・ラブ・ユーの先で
想像以上になにもない部屋だな、というのが最初の感想。
本当に、正直なところ不安になってしまうくらい、先輩の部屋にはなにもなかった。
モノだけじゃない、
それは、生活感という空気さえも。
「佳月、こっちおいで」
ゆるいウェーブのかかった長い黒髪を、ターバンでぜんぶ上げている風呂上がり仕様の美少女が、いたずらっ子みたいに手招きをしている。
呼ばれるまま机のほうへむかうと、指をさされる前に、わたしはその存在に気づいたのだった。
「あ……」
「これでしょ? 佳月が昂弥にあげたウサギ」
見覚えのある、へちゃけたピンク色。
壁にもたれさせることで無理やり座っているようなその子が、両腕に抱えている赤いハートにも、しっかり見当がついた。
「じゃ、もうすぐで昂弥も上がってくると思うから、あたしは自分の部屋いくね。おやすみ。いい夜にするんだよー」
意味深にそう言い残した仁香さんがいなくなったあとも、わたしはずっとウサギとハートの傍にいて、それらから目を離すことができなかった。
さとくんとの思い出と、
昂弥先輩と出会ってからの日々。
わたしにとって、とても大切な意味をもつふたつの世界が、いままさに目の前で連結して、融合して、溶けあっていっているような。
そういう、不思議な心地がしている。
それは、どんな言葉を使ってもとうてい表現できなさそうな、とてつもない感動と喜びだった。