アイ・ラブ・ユーの先で
「おい」
すぐ近くで低い声が聞こえて、はっとして顔を上げた。
反射的にがばりとふり向くと、せっけんの香りを全身に纏った先輩が、髪を濡らしたままわたしを見下ろしていた。
「おまえ、人のプライバシーを普通に侵害してんなよ」
「だって……これ、もしかして、ずっとこうやって飾ってあるんですか」
「飾ってあるんじゃなくて、ほかに置き場所がないだけな」
タオルで髪の水分をガシガシ拭きとりつつ、嘘か本当かわからない口調で吐き捨て、踵を返す。
そうしてベッドにどかりと腰かけると、先輩はわたしを見上げ、なぜかニヤッと口角を上げたのだった。
「なにしてんの? 早くこっち来いよ」
「え」
「一緒に寝るんだろ?」
部屋じゅうに響き渡る、形勢が逆転していく音。
仁香さんが言った『中学生みたいで恥ずかしい』のは、先輩じゃなく、きっとわたしのほうだ。
あのオンボロアパートの一室では、せまいマットレスの上で、毎晩くっついて眠っていたはずなのにな。勢いってすごいんだな、本当に大事だよな。
なんて必死に冷静さを保ちながら、おそるおそる距離を詰めていくと、リーチをとられた瞬間いっきに手首をつかまれた。
思考がまわる暇さえ与えられず、そのまま体を引き寄せられる。
そうして、いつのまにか、わたしはベッドの上で、先輩の腕のなかにすっぽり収まっていたのだった。