アイ・ラブ・ユーの先で
「おまえさ、オカーサン、あれから元気にしてんの?」
このままなにをされてしまうのかとどきどきしたのもつかの間、先輩は涼しい顔で、そう問うた。なんだか拍子ぬけ。
「あ……はい、もうすっかり。もりもり食べられるようになって、夜もちゃんと寝られてます」
「そうか、なら、よかった」
病室で家族と和解した日、持ってきた荷物をボストンバッグにまとめなおして、家出を解消した。
飛び出すも、戻るも、嫌になるほど自分勝手だったわたしに、先輩は怒らないどころか、よかったと笑い、バイクで家まで送ってくれたのだった。
大きな愛情と果てしない優しさを感じて、背中にくっつきながら最後に少しだけ泣いてしまったのは、いまでも秘密にしていること。
「妹は?」
侑月は、あれから部屋にこもりきるというのはなくなった。
まだつづいている夏休みをそれなりに満喫しながら、2学期にむけて準備をしている最中だ。
「本人は、新学期から頑張って学校に行ってみるって言ってます。もしそれがキツかったら、また家族で考えようって、お父さんが」
顎をわたしの頭に乗っけながら、先輩が「そうか」としみじみつぶやく。
身をよじり、見上げると、想像以上の至近距離で視線がぶつかった。
一瞬だけ、時が止まる。