アイ・ラブ・ユーの先で


里浦昂弥は、いつ、水崎昂弥になったんだろう?

9年前にお別れをしたさとくんは、あれからどんな人生を歩んで、いま昂弥先輩として、わたしの傍にいてくれているの。


「あの、いまさらですけど。苗字が変わったってことは……先輩は、このおうちと養子縁組をしたんですか?」

「そう。中学上がるタイミングでおっさんが手配してくれた。俺の母親と、おっさんが、いとこ同士なんだよ。そういう繋がりで」


それは仁香さんに聞いている通りのことだった。


知ったかぶりをして養子縁組なんて言ってみたけれど、単語をふわっと耳にしたことがあるだけで、実際それがどういう仕組みなのかはよくわかっていない。

でも、両親がそろっている、一般的な家庭の子どもが使う制度ではないということなら、なんとなくわかる。


「ちなみに……あのとき、入院してたお母さんは」

「ああ。結局、死んだよ」


きっと、その答えを、わたしは知っていた。
ちゃんとどこかで予感していた。

だけど、はっきりとそう聞くまで、本当に確信はしていなかった。


なんということを口にしてしまったのだろう。

後悔が胸を蝕んでいくのは嘘じゃないのに、それでも知りたい気持ちを止められないのは、どうしてなの。


「お父さん……は」

「あいつは早くどっかで野垂れ死ねばいいものを、しぶとく生きながらえて、いまでも忘れたころに連絡してきやがる。カネが、底を尽きたらな」

< 275 / 325 >

この作品をシェア

pagetop